街を観察する~吉祥寺~
先日受講したセミナーにて行動観察の重要性についてお話がありました。
どんなにデータで定量的な分析を重ねても最後の最後は目で見ないと分からないというのは僕自身もずっと積み重ねてやってきたことなので、非常に共感しました。
せっかくの機会なので、自分が行動観察してきたことを振り返りながら意識してきたポイントをいくつかのテーマに分けてまとめてみようと思います。
行動観察で意識しているポイント
観察の時に自分が特に重要視していたポイントは何かと考えてみると、“仮説を持ってモノを観る”という事につきるなと思います。
例えば初めてニューヨークに行く事が決まった人が、それ以降テレビや本屋でニューヨークの情報に自然と目が止まってしまうことがありますが、基本的には観察も同じで、自分の中に仮説やアンテナを立てておくことで情報をキャッチアップできるのではないかと思います。
そして仮説の精度は“観察までに積み上げて事実や視野の広さ”だと思っています。つまり“仮説を持った観察を繰り返す”ということ。
僕は前々職の店長時代に休みを使って売れている店のレイアウトやディスプレイを観察し、それに対するお客様の動きなどをノートに書き写すということをやっていました。(今みたいに携帯で撮影などできないので、目に焼き付けて外でノートに書き写すを繰り返す)
各店のレイアウトやお客様行動の共通点や相違点などを見て、王道ポイントとブランド毎の尖ったポイントを自分なりに検証していました。
この時の下積みは、前職の代理店時代も今の仕事にも大いに役に立っていると思います。
街を観察する~吉祥寺~
以前、吉祥寺を舞台にデジタル戦略を実施する計画があった際に実施したことです。(その計画は頓挫しましたが)
駅ビルは街の魅力や吸引力に力を借りながら事業を行っているので、その街をデジタルでも再現すべきと考え、2日間かけて吉祥寺の街をくまなく観察する計画を立てました。
しかしながら、吉祥寺の勤務経験がない僕が2日間で、吉祥寺の街を高い精度で観察するためにはエビデンスが足りないため、有識者のお二人に事前リサーチを行う事にしました。
仮説設定のためのリサーチ①当社、菊池相談役
当社の菊池相談役は、20年前の恵比寿店開業を皮切りにマーケティング視点で駅ビルの開発・運営を行ってきた方で、僕が現在所属しているマーケティング戦略室を立ち上げた方でもあります。
↓菊池会長の詳細はこちら ※データが重いです。。。
http://www.itochu-tex.net/geppo/0805.pdf
(菊池相談役との話)
・「吉祥寺」「浦和」「大塚」はこだわりのある人が多く住んでいる。口コミ効果を見込み易いエリアでもある。
・反面、恵比寿はこだわりよりも(価格面などに)シビア。こだわっていても必ずしも売れる街ではない。
・アトレ吉祥寺はこだわりの店を見せていくべき。こだわりとは、どういう部分を売りにしたいのかを明確に利用者に伝えていくこと。現状は、なんとなくしか考えていない(伝わっていない)ように感じる。そのため、西荻窪や阿佐ヶ谷に負けてしまっているなどという話になる。
・街のイメージとアトレのイメージの差をよく観察する必要がある。
・以下の店舗は見ておいた方がよい。
・中道通り全体(入ってすぐに価格訴求の八百屋があり、進んでいくとこだわりの店があり、その先に紀伊国屋がある)
・東急裏にもこだわりの店が多い。
・中道通りの麦わら帽子というアンテナショップ。武蔵野市を始め、長野県安曇野市、山形県酒田市などの商品を提供している。手作り味噌などはこだわりを感じる。
・東急百貨店の地下に明治屋のグロッサリーが出店した。
・JA全農のお店は行ったことがないが、視察してみるとよいと思う。
・紀伊国屋がアトレ吉祥寺に出店したことで、路面店があったことを知った人が非常に多い。(アトレが情報のハブとなる要素がある)
仮説設定のためのリサーチ②吉祥寺店インフォメーションリーダー
当社の関係者で街の人と一番コミュニケーションを取っているのは間違いなく“インフォメーションセンター”の方なので、リーダーの方にお話を伺いました。
(インフォメーションリーダーとの話)
・はなびの広場(インフォメーション前)に人が溜まっている。→待ち合わせスポットになっている。(ここははなびの広場なの?と聞かれる)
・待ち合わせ場所自体の問い合わせも多い。(改札口はどこ? など)
・「改札」「バス乗り場」「井の頭公園」などは問い合わせが多い。
・来街者からの問い合わせが多い。
・施設の問い合わせが多く、「ATM」「コインロッカー」などの問い合わせが多い。「コインロッカー」はスーツケースを持っている方からの問い合わせが多い。特に土日に「コインロッカー」の問い合わせが多い。
・商店街についてはよく聞かれる。→「ハーモニカ横丁」など具体的な問い合わせもあれば、「商店街が多い方がどっち」などと曖昧な問い合わせも多い。商店街の名前はあまり覚えてない方が多い。
・商店街の多い場所と尋ねられたら、全体マップをお見せしながらご要望をお聞きし場所をご案内する。(一番全体を見やすいマップはアートギャラリーマップ)大体、「サンロード」「ダイヤ街」「中道通り」へのご案内が多い。
・雑貨の店が多いのはどっちなどとも聞かれる。東急裏に北欧ストリートという通りがあるので、ご案内する事が多い。
・来街者は入念に街を調べてきている人よりは、なんとなくの目的を決めてきているがどこの店に行くかは決めてきていない人が多い。(なんとなく雑貨を見たい、なんとなくお洒落なカフェに行きたい など)
・おすすめを提案してほしいという問い合わせも多い。→例えば、雑貨を見たいと言われたら、特定の店舗ではなく中道通りなどをご案内する。(「雑貨が多いのは中道通りです」 など)
・アトレのインフォメーションであるという認知は薄い。→元々、上部のサインには「街案内」としか表示されていなかった。(当時はアトレの事を聞いていいの?などと言われた)
・特にご回答の想定問答は用意していない。
・問い合わせされる方はご年配が比較的多い。→ご年配は「飲食店」「ATM」「ユザワヤ」などの問い合わせが多い。「ユザワヤ」についてはキラリナに移転したことを知らない人の方が多い。
・お問い合わせされる方はそれほど予備知識を持っていない。
・地図を求めている方は非常に多い。→特定の通りよりは全体マップを求める方が多い。
・パンフレットの補充は、ムーカン(武蔵野観光機構)が行っている。1日に数回補充に来る。
・アトレ館内の問い合わせは「ユニクロ」「トイレ」「ATM」「ロッカー」などの問い合わせが多い。
・食事できる所の問い合わせも多い。カフェと食事の問い合わせだと「食事」の問い合わせの方が多い。
・食事の問い合わせについては、ジャンルも問われずに聞かれる事も多い。→「何系がよろしいですか?」などお聞きするが、特にお答えにならない方も多い。「美味しい所」などと聞かれたりもするが、「お客様の味覚によりますが~」などの前置きをしてご案内する。
・飲食店のご案内は、基本的に、まずアトレ館内の飲食店をご案内する。市中だと、よくテレビで紹介されている所をご案内する。「肉のさとう」「いせや」「葡萄屋」「芙葉亭」など
・街のミーティングを月1回で行っている。市中の問合せについては月間でまとめている。
・吉祥寺のお土産のことも聞かれるので、その際はお土産パンフレットをお渡しする。お土産は食品が多い。(井の頭せんべいなどは具体的な商品で聞かれる)
・アトレイベント(アトレト)の問い合わせは少ない。しかし、熱狂的なファンが5人程おり、イベントパンフレットがでるとすぐに取りにくる。
【仮説設定・行動観察】
(仮説設定)
・街全体では、こだわりを持った人が特定の目的を持たずに街に訪れている。(時間消費型のマーケット)
・こだわりがある分、自分の目で見て気に入ったものを吟味して購入する。(モノの価値を見定める人が多い)
・予備知識が少ない分、よいものが見過ごされるケースも多い。
・反面、アトレのデータでは食料品はリピーターが大半なので、街の傾向とアトレの食料品エリアの傾向は違う。
この辺の仮説をゆるく頭に入れつつ、行動観察を実施しました。
(街全体の観察)
武蔵野の商店会 / ショップ関連リンク集 - 武蔵野市観光機構(むー観) 武蔵野市(吉祥寺・三鷹・武蔵境)の観光イベント情報
・エリアによって利用者の特徴が大きく違う。
・ダイヤ街:地元の高齢層が多い。
・サンロード商店街:地元の高齢層と来街者が混在している。
・中道通り商店街、東急裏:吉祥寺らしいこだわりがありそうな客層(比較的若い)
・吉祥寺在住者っぽい人はそれほど着飾っていない→高所得者が多いエリアにも関わらず、百貨店が衰退した要因?
(井の頭公園の観察)
・性別、年代の特徴はそれほどない。
・大人数のグループは少ない。→平日だから?「カップル」「家族」「女性二人組」などの小グループが多い。
・幼児づれの主婦友のグループはいない。→ベビーカーでの散策が困難だから?
・アトレっぽい主婦友グループは、七井橋通りの飲食店に多数いる。
(アトレ内の観察)
・店員とお客様の会話は生鮮売場よりも和洋菓子や惣菜売場の方が多い。→どのような会話をしているのか気になる。
・インフォメーション前と2階の改札付近には人が多く溜まっている。(特に年配女性が多い)→滞留時間が長い分、何かの情報を訴求するのには効果的なエリア?
・食料品の見方は場所によって大きく違う。
☆路面店の紀伊国屋とアトレ内の紀伊国屋の購買特徴が大きく違う
路面紀伊国屋:1つ1つの商品を丁寧にみる。買い物する物が少なくても売場全体を見る。滞在時間が長い。→良いものであれば、目立たない場所にあっても売れそう。
アトレ内紀伊国屋及び生鮮食品売場:商品を吟味している感じがない。品定めせずに商品を買い物かごに入れている。
・利用するカフェによっても客層は異なる。→ハーブス利用者は、吉祥寺の街のイメージに近い気がする。(無目的感、時間を楽しんでいる感、ゆとり感 など)
☆部分は、吉祥寺の街とアトレの価値の違いを象徴する大きなキーになると考えました。視察時はアトレのスーパーがザ・ガーデン自由が丘から紀伊国屋に変わって1年も経たない時期だったので、昔からアトレを利用している方はアトレが提供するサービスに高い信頼感を持って頂いているのではないかと感じました。
この高い信頼感の中身をデジタル戦略で可視化していくことは大きな意味があるのではないかと考えました。
【行動観察から検討した戦略の方向性】
・来街者と居住者は全く属性も戦略も異なる。
・戦略毎のターゲットは明確に定義し目線合わせをする必要がある。
・街の情報は検索型ではなくゾーンなどの塊で伝える(キュレーション型)→探す楽しさを醸成
・街のこだわりやゆとり感を伝える→街にきている人の求める情報は具体的でないので、検索型ではない気の利いている感が重要。見ている間に新しい発見がある。
・ただし、散策をお客様へ完全に依存すると発見されないので、こだわりは正しく伝わるように工夫する
・アトレの食料品の利用者は、良くも悪くも商品の価値を理解している。→情報や商品価値提供ではなく、利便性向上によってアトレの価値が高まる。
・アトレの価値をデジタル戦略で可視化しリアルへ転換する。
・インフォメーションセンターは大きな価値が眠っており、オムニチャネル戦略の中で重要な役割を果たす。
この当時は、施策計画時にプラン自体が頓挫しましたが、今一度観察に磨きをかけてチャレンジしていきたいと思います。