ユーザー視点の価値訴求
今後、デジタル施策を推進していくにあたり、伝える情報の中身がユーザー視点で考えられていることが重要だと感じています。
デジタル施策に関わらず、大井町店で食料品・生活雑貨のカテゴリーマネージャーを担当していた時にもユーザー視点の重要さを痛感したことがありました。
大井町店は他のSC同様、夏・冬のセールが最大の商戦となります。しかし食料品ショップはその集客を活かすことができていなかったため、セールのタイミングに合わせて食料品ショップの合同企画を実施致しました。
■デベロッパー視点施策(失敗例)
セール期間中にスーパーを除く全店で「ワンコイン弁当(一律500円)」を展開しました。実施にあたっては期間限定のお弁当を展開して頂けたショップもあり、打ち出しも分かりやすかったのですが、結果的には売上に貢献しないどころか、ワンコイン弁当が大きく足を引っ張る結果となりました。
よくよく考えれば分かることでしたが、新規のお客様がその店のファンになるきっかけの多くが定番商品を何かのきっかけで購入し、それを気に入って再来をするというのが王道のパターンです。いくら安いからといって定番商品でないワンコイン弁当が新規のお客様獲得のフックになることはありませんでした。
では、誰がワンコイン弁当を買ったかというと、いつも食料品ショップを利用している大井町店の従業員や既存のお客様でした。それらの方がいつも購入している500円以上するお弁当の代わりにワンコイン弁当を購入したに過ぎず、各ショップの客単価を下げただけの結果に終わりました。※従業員の方には「いつもと違う弁当を安く購入できた」とご満足は頂けましたが、本来の意図とは違うので。。。
デベロッパーしか実現できない横串のキャンペーンという所までは良かったのですが、お客様心理を深く考えず、デベロッパーがまとめやすい企画という視点を優先してしまった結果でした。
■新企画立案のヒント
とは言え、次回に向けて代替案を考えなければならないのですが、なかなか良いアイデアが思いつきません。そんな時に牛丼の吉野家に行った時に新たなアイデアが降りてきました。その吉野家は帰宅動線にありながらもほとんど行ったことがなかったのですが、たまたま食事をした際に、30円引きのチケットをもらい何気なく財布の中にしまいました。
そして別の日に食事をして帰ろうと思った時に財布を開けるとそのチケットが目に入り、吉野家に再来店しました。この何気ない自分の行動をヒントに企画を検討しました。
■ユーザー視点施策(成功例)
食料品全10ショップで期間中利用できるチケットプレゼントという内容をベースに企画を煮詰めていきました。
(施策検討時のポイント)
①お客様に分かりやすいキャンペーン(利用対象ショップや利用金額の制限が多いと問い合わせが増えてマイナスブランディングとなる)
②重要なのは、値引額よりもお客様の財布にチケットが入り続け、財布を開けるたびにアトレの食料品ショップを思い出してもらうこと
③受け渡しや説明が煩雑にならない(通常期でも夕方の時間はレジ待ちが長いので待ち時間が長引くと本末転倒)
(施策の仕込み)
・チケットの名前は「お得クーポン(おとくーぽん)」と命名
・クーポンの価格は50円で統一
・クーポンは割引券ではなく金券扱いにする
・500円以上の購入で50円クーポンを1枚配布。次回、500円以上の購入でクーポンを1枚利用できる⇒食料品10ショップ中9ショップが客単価500円を超えているので、期間中はほとんどのお客様とクーポンの受け渡しをすることになる。それにより期間中は常にお客様の財布にクーポンが1枚入り続ける。
・配布されたチケットはどの店でも使える様に、裏側の経費を調整⇒小規模店舗は自分たちが配布したチケットが大型店で使われるのではないかと懸念するため、ここの調整が超重要。
・チケットどの形状の財布にも収まり、かつ埋没しないように名刺サイズよりやや小さめで作成。
・精算管理の部署と打合せを重ね、ショップ向けと精算担当者向けの運用マニュアルを作成し、オペレーションを徹底。
(懸念点)
・ クーポンの欠品
⇒前年のトランザクションデータから期間中に必要な枚数を割り出し、クーポンをまとめて配るのではなく期間中何回かに分けて配ることで紛失のリスクを回避する。
・発生コスト
⇒このやり方だと期間中のクーポン利用率が分からないので、発生する経費が読めない。前年の会員データから期間中の1人あたり来店回数を割り出し、目標伸長率を掛け合わせ、想定利用枚数を予測(結果的には利用が上振れし、経費は見込みより若干増えました)
ここまで周到に企画を詰めたにも関わらず、人事異動でセールの初日から本社勤務だったため、成果を生々しく体感はできませんでしたが、特に直近で苦戦を強いられていた大型店が売上を伸ばしました。
各店の店長に話を聞くと、やはり当初の仮説通り「財布に常に入っている事が再来店の大きなきっかけに繋がった」「食料品フロアは利用されていたが、チケットをきっかけにいつもと違うショップを使う方がいた」と体感される事が多かったようです。
個人的にはそろそろブラッシュアップした方がよいと思っているのですが、この施策は現在も実施して頂いているようです。
■施策を通しての気づき
食料品の単価ぐらいであれば、使っていない事に特に理由はなく、インサイトを付いた施策でちょっとだけ背中を押してあげるだけでその店のファンになる可能性があることを実感しました。
例えば、お寿司のお店で実施した面白い施策で、母の日に通常期に取り扱っている商品のネタも価格も変えず商品名を「お母さんありがとうセット」としただけで、飛ぶようにその商品が売れました。これは物を通じて感謝の気持ちを届けるというインサイトを的確に捉えていると思います。
売り手側は難しく考え過ぎたり、安くすれば売れるなどと考えがちですが、商品を購入するきっかけなどはそういうものなのだと思います。
デベロッパーの仕事はキャッチーなキャンペーン名でショップや商品をくくるだけではなく、SCやフロア、業種を利用されている方や利用する可能性がある方のインサイトを深く考え、ちょっとしたきっかけを作って差し上げる事が非常に大事だと思います。
僕も日々勉強中ですが、常に意識をしていないとすぐに事業者目線になってしまいます。。。